2015年03月17日

C型肝炎の恐怖にざわめくホーム。

各施設には入居者データ(ファイル)というものがある。東京で勤務していた施設は特養とショートスティだけで150名近い入居者がいたので、ファイルがずらりと並んでいた。相談員用のファイルと現場用のファイルがあり、介護職員も常にこのファイルを読み込んで介護にあたっていた。その人がどこで生まれどこの学校を出て、誰と結婚しその配偶者との関係はどうだったのか、子どもは何人か、趣味は、性格は、話題にしてはならないこと、などアセスメントで知り得た情報が全てそこに落し込んである。介護スタッフの頭にそれらが叩きこまれているし、それが仕事の一歩なのである。ファイルは書き込まれ、削除され、また書き込まれ、生活とともに情報は増え、そして亡くなった後は5年間地下倉庫に保存される。医療カルテと同じ扱いだ。

グループホームはワンフロアに9名が居住している。特養の数から比較すると、「あぁ、ここは家なのだなぁ」と思うような小さな施設である。ここにも一人一人にファイルがある。しかしファイアを見て驚いた。ほとんど情報がかかれていない。その人がどういう生育環境だったのか、どのような経緯でそのグループホームに入居したのかがどこにも記載されていないのである。名前と家族氏名が書かれているだけの簡素なものだ。

高齢者は生まれた時から年をとっていたわけではない。私たちは利用者の長い歴史を知ることで個別性が生まれ、その人の人生がいきいきとしてくるのである。そして、なによりも会話のとっかかりになるし、家族とのコミュニケーションのツールともなる。そういう個人史がないのだ。

そういう薄い情報の中である女性がC型肝炎の抗体を持っているという記述をみつけた。何かとクレームをつける長女がキーパーソンの80代の女性である。

先日、大量の血便が出て入院し今は退院しているが、「ご存じと思いますが」という出だしで職員のノートに記入した。

「ご存じとは思いますが、○○さんはC型肝炎(+)の人です。退院後も血便が出ることがあると担当医からも言われています。介護の時はグローブを着用して下さい。特に血便の時には注意を要して下さい。厚労省の肝炎に関する冊子をコピーしましたので読んで下さい」
と書いた。

次に出勤した時が大変だった。
「知らなかった!」
「手がアカギレだからそこからもうウィルスが入ったかもしれない」
「食器は一緒に洗って大丈夫か」
「あぁ、もうだいぶ触ったからうつっているかもしれない」
「お風呂は最後にした方はいいか」
「お風呂の時はグローブで洗った方がいいか」

蜂の巣を突いたような騒ぎであった。
それぞれが疑問を口にする。必死である。わかる。誰もが家族がいる身である。知らないとことは混乱を起こす。ほとんどの職員がヘルパーであり、このグループホーム以外での勤務経験がない。介護福祉士のように国家試験のために感染について勉強しているわけではない。また、自ら調べるような人はここにはいない。このグループホームはあくまでも家の延長であり、家庭の主婦が介護をしているというスタンスに近い。

感染症をもっている人間が入居する場合は、アセスメントした者(特養なら相談員だ)が、職員全員に情報を流さなければならない。高齢者は注射針の共有が当たり前の時代であったし、歯科も衛生が今日ほど徹底していなかった。また、手術の際の輸血による感染も多い。買春が当然のような時代だ。夫から感染した女性も多い。そんなわけで、B型、C型肝炎はよくあるし、梅毒もかなりの数がいる。今後はHIVも出てくるだろう。怖がっていたら医療者・介護者は勤まらない。情報と正しい知識が必要である。

今回のケースは施設側のミスだ。それにしても、施設によってこんなに差があるとは驚くばかりである。

ただ、思う。
職員の介護知識は特養よりも下だが、入居者は健やかに自由に暮らしているのである。不思議なものである。職員のレベルと入居者の長生き年数は反比例しているような気がするのだ。


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posted by 雪あらし。 at 23:10| Comment(5) | TrackBack(0) | グループホームって? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月13日

ある介護職員の小さな話。

どこの施設にも、よい人材がいる。そういう人がいると私は誰にも言わずに注意を払う。年下であっても、年上であっても、男でも、女でも、職種が違っても関係ない。そういう人はいろんなことを教えてくれる。

今いるグループホームでも一番若く経験の浅い職員を私はじっと見ている。いつも穏やかな笑顔で入居者と接し、不慣れな食事作りにも一生懸命だ。理不尽な先輩の要求にも気持ちよく応じている。こういう人がスキルを身につけたらなかなか良い介護士になるだろうなぁ思うのである。

「ボクは売られた喧嘩を買うどころか、そのまま逃げちゃうんですよ。穏やかに生活したいというか、自分の世界にそういう人を入れたくないので黙っているだけです」と言う。介護業界ではトゲトゲしいオーラをまとった人間が少なからずいる。そういう人に対しても、「まともに相手にしていても自分が疲れるだけですから」と大きな体を斜めにして静かに話す。

彼の視点は面白い。高齢者は80代から100歳超の女性がほとんどだが、若い頃に会ってみたい女性がいるらしい。「あの人は目が大きいからかなりきれいだったと思うんですよ」「あの人はなかなかブラックなところもあって面白いです」と話すのだ。

高齢者は突然高齢者になったわけではない。誕生し、青春時代を送り、働き、年老いて今がある。施設職員の多くが介護業務に追われ身体機能にしか目がいかなくなり、その人の生きてきた長い貴重な歴史を忘れがちになる。だが、彼は高齢者の過去も見ながら介護しているようで、私は静かに応援しているのである。そして、とても勉強になるのだ。


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2015年03月11日

摘便はお好き?

摘便(てきべん)とは肛門に指をいれて便をかき出す医療行為である。若い時なら便秘になろうとも、うんこが固くなろうとも、自力で「ふん!」と踏ん張れば何とかなる。そういうのはトイレで繰り広げられる一人の世界だ。うんことは実に個人的なものである。

が、高齢になると肛門付近まで便が来ていても、いろんな理由から力むことができなくなる。看護師は医療用のグローブを着用し、グリセリンなどの潤滑油を指につけて肛門に挿入する。これはプレイではなく、生命にかかわる医療行為である。年を取るとうんこで他人を巻き込むことになるのだ。食べたら出すのが「人間だもの(みつを)」なのである。

アルバイト先のグループホームには100歳超えの高齢女性がいる。彼女のパッドに血液が付着していると何回か申し送りがされていた。家族は、直腸にせよ婦人科にせよ、検査をしても苦しいばかりなので静かに生活させたいと希望していた。家族としては当然の判断だ。それでも、職員が持ってきた血液が付着したパッドを見た時に何が原因なんだろうと暗い気持ちになっていた。

最近、リーダー格の男性職員がこの超高齢女性に摘便していることを知った。他の職員は皆知っていたようだった。リーダー格は前任ケアマネの書いた文章の打ち間違い部分に二重線を引き直し自分の訂正印を押すという面白いことをやる人で、私はひそかに「訂正印」と呼んでいた。万事につけよく気がつく人間であり、人当たりも良い。歯を出して笑顔のままで彼は、「今、摘便したら、ちょっと出血しちゃって、ちゃあんとオリーブオイルつけたのに」と同僚に話していた。

看護師でも摘便は難しいという。粘膜は傷つきやすく、ちょっとしたことで出血するのである。それに認知症高齢者であっても肛門に他人の指を入れられるのはストレスだろう。ましてや男性介護者だ。心にもやもやとした思いが湧く。

昨日はフロア会議だったので、摘便は医療行為で介護職員が自分の判断で単独で行うのは違法だと話した。驚いたのは医療行為と知らずにいた人がほとんどだったことだ。「訂正印」が笑顔で言うには、超高齢女性を3日間隔で摘便していたという。この高齢者女性は、訂正印が自分で設けた3日間ルールでうんこをほじられて出血していたのである。グループホームには1週間に一度、医者も看護師も来る。今後は医者や看護師と相談しながら排便コントロールを考えましょうと話しが終わった。

話は終わったが、何か気鬱になった。看護師でもない彼は寝たきりの若い女性の肛門に指を入れないだろう。高齢者だから行ったのだろうか。出血したことをどうして摘便と結びつけなかったのだろうか。個室にこもって一人で行う3日間ごとの摘便。大変だったろうご苦労様とは思わない。なにかが鈍く、なにかがおかしい。

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posted by 雪あらし。 at 19:40| Comment(2) | TrackBack(1) | グループホームって? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月25日

人相さんの無断欠勤事情。

アルバイトしているグループホームの担当看護師と一週間ぶりに会った。この看護師は仕事もできるが、感情が安定していて高齢者に対しても良好なコミュニケーションが取れる人だ。

介護の場は、時に宝のような人材がいて、町の片隅の保障も十分でないような場所で一生懸命に仕事をしていたりする。一方で、ヒラメクラスの人間が大きな施設長室で、甘い汁をチュウチュウ吸うことを考えていたりする。だから、私は、理事長とか施設長とか名前では信じない。奴らは総じてチュウチュウ族なのだ。

さて、アルバイト看護師にしておくには勿体無いナースに、人相さんの話をすると途端に嫌な顔をした。
「雪あらしさんがどこまで聞いているのか知らないけれど、そりぁ大変だったのよ。不祥事のことは聞いた?そう、あれもすごかったし、実際、彼女自身も巻き込まれていたのよ。その話とは別に、あの人、はじめはディサービスで雇用されたんだけど、そこでトラブルが多くて、上の*フロアに移動して、今度は欠勤に次ぐ欠勤でね、当てにならなかったのよ」注)*グループホームは2つのフロアに別れている。また、ディサービスも異なるフロアに設置されている。

「休みの理由もね、子どもが熱を出した。子どもが交通事故にあった。母方のおばあちゃんが救急車で運ばれた。父方のおばあちゃんが死んだ。母方のおじいちゃんが倒れた。父方のおじいちゃんが死んだ。猫が生爪を剥いだ。自分が倒れたってね。次はどういう理由か皆、半ば楽しみにしていたくらいだったの。でもね、ほら、日中の介護スタッフは一人でしよう? 出勤の5分前くらいにそういう電話が来るもんだから、急遽休んでいるスタッフに出勤を頼んだり、シフトを組み直したりして大変だったのよ。そのうち彼女も殺す人がいなくなったらしくて(笑)無断欠勤をし始めたの」

「それでこのフロアに来る前、会社側としては退職してもらってかまわない。一旦引き受けてくれという話しになって移動してきたのよ」

「パチンコ仲間の同僚ヘルパーが「そろそろちゃんとしないと職を失うぞ」って警告したらしくて、その後は欠勤も無断欠勤もなくなったのよ」

興味尽きない人相さんであった。
ちなみに私には、「90歳の祖母の介護をして寝不足」と言っていたが、それは父方の祖母なのだろうか母方の祖母なのだろうか。

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posted by 雪あらし。 at 12:52| Comment(2) | TrackBack(0) | グループホームって? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月24日

人相が悪い女性ヘルパー。

私は今グループホームのアルバイトの介護支援専門員(ケアマネジャー)である。時給はまあまあ高いし気楽といえば気楽である。たかがアルバイトの仕事であり、次にやるべきことの準備をしながら静かに仕事をしているつもりである。

そのグループホームの勤務初日から気になる女性ヘルパーがいた。年の頃なら40前だ。人相が悪い。なるべく関わり合いにならないほうがよいと思った。

管理者は、研修モドキの時に、「今、このグループホームは改革の時なんです」と言った。そして、自分も着任したばかりだと言い、「恥ずかしいんですが、ホームの中でいろいろと不祥事があったんです」と暗い顔をして説明した。首謀者のヘルパーはとうに辞め、管理者も交代した。「ここはシロウト集団なもんで、スキルアップを図っていきたいんですよ」、そうして、「是非、お力をいただきたい」と言われた、「はい」と答えたが、アルバイトの10日しか来ない身で不思議なことを言う会社があるもんだと思った。与えられた仕事はきちんとやるが、私は管理職ではない。「お力」は、持ち上げなのか、安い労働力をしっかり使うのかはわからないが、私はここでは、冒頭に書いたように静かにしたいのであった。

ところが、ちょっとでも勤務してみると気になるところが出てくる。人質事件の発言の前から私は人相の悪い彼女の発する言葉が気になっていた。彼女は出勤してエンジンがかかると、入居高齢者に切れ間なく話し彼らの行動を決めていく。同僚と話す言葉よりも数段高くなり、幼児に言い聞かすように話す。私がいる事務室(とは名ばかりだが)があるところから聞くと、それは小バカにしたように聞こえるのである。

グループホームはワンフロアに9人程度の人が暮らす。日中、二人くらいのヘルパーが介護をしたり、三食の料理を作ったりするのである。狭いリビングで少人数で動いているとそれぞれの介護力がはっきりわかる。介護の力は優しさや強さも包括する。寄り添い方や話し方や、その人の生き方みたいなものが浮き彫りになるのだ。

人相の悪い女性ヘルパーがある高齢者女性に当てこすっている。
ぐちぐちと言った後で、
「どうして、そう指示が入らないのかねぇ」
とやれやれという感じで嘆いてみせた。

80代後半の女性に言い放ったこの言葉に言う方も聞く方も違和感を感じなければ、その施設は破綻している。このような言い方を、非常に古い意識の介護人がすることがある。措置制度時代に使用されていた言葉だ。養老院といわれる時代から運営してきた施設では、介護人を「先生」とか「寮母さん」と呼ぶ高齢者がいる。上下関係ができあがっているのだ。「先生」と呼ばれて悦に入っている奴らに反吐が出る。失礼。

元に戻そう。
「どうして、そう指示が入らないのかねぇ」

指示は指図であり、命令である。
人相の悪い女性ヘルパーは、「どうして、私の命令が聞けないの?」と言っているのだ。

言葉は続く、
「あんまり言うこと聞かなかったら、晩御飯、あたんないよぉ」
「そうなったら困るでしょう?だったら、ちょっと静かに待っててちょうだいな」

これをアニメのような声でいうのだ。胸の奥に怒りの塊のようなものが弾む。まだ、聞こえる。

股関節が悪い高齢者に向かって
「なあに、ビッコ引いてんの?」
と言った。

事務室から出て行き、
「人相さん」
と声をかけた。

「はぁい」
「ビッコというのは差別用語だから止めて下さい」
「はあ?」
不満そうな顔をしている。
「だったらなんて言うんですかぁ?」
「足を引きずると言って下さい」

これを聞いていた専門学校を出たばかりの気の良い若者が、「びっこって差別の言葉なんですか。知りませんでした」と無邪気な顔で私を見た。

人相の悪い女性ヘルパーも何も知らないだけなのだ。ただ、知らないということは、とても罪悪なのだ。

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posted by 雪あらし。 at 21:02| Comment(6) | TrackBack(0) | グループホームって? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月10日

グループホームで緩く働く。

今アルバイトしているグループホームは月10日間の勤務である。主な仕事は1年がかりで1階9名のケアプランを作り、2階9名のケアプランのチェックをするくらいなので正直言って暇である。今後、定職に就いても日数を減らしWワークとして継続できるようなトコロである。

スキンヘッドの管理者も穏やかだ。介護スタッフの皆さんもわからないことがあれば気持ちよく教えてくれる。10日しか勤務しないということは、入居者の動向がなかなか把握できないということである。ゆえにスタッフに頼らざるを得ない。そのためにも良好なコミュニケーションが必要だ。

お昼ごはんはだいたい12時からだ。ノックをして入った小さな休憩室に先客がいた。介護職男子である。私は人見知りである。多分、私と会った誰もが信じられないと笑うだろうが人見知りなのだ。社交的に見える人が社交的とは限らない。家でへとへとになっているかもだ。昼休みに一人になりたいなと思いながらも、少しでも皆と仲良くしなければならないと笑顔で席に着いた。

二つあったみかんを介護職男子に渡しながら質問してみた。
「このグループホームはどう?」
「まだ勤めて3カ月だから、なんとも言えないけれど、前の特養に比べると緩いっすね」
「確かに特養は施設に一歩入った時から何があるかわからないような所だものね」
生と死、拘束と自由、インフルエンザとノロウィルスの恐怖と予防、家族の緊迫した顔と依頼とクレーム、同僚間の人間関係、先輩後輩、上司に部下、看護師と介護士、相談員と看護師、それらが施設の中で渦のようになっているのが特別養護老人ホームだ。そんな緊張状態とはまったく異質な緩いポワンとした雰囲気がそこのグループホームにはあった。

彼は介護福祉士を取っている。近いうちに重要なポジションが与えられると少し嬉しそうに話してくれた。
「自分、これで転職4回目なんですよ。これで最後にして落ち着きたいんです」

*******
介護士マッキーは本日をもって退職となった。疲労が重なったのかインフルエンザに罹ったようだ。しっかりと治して、再スタートをきってほしい。お疲れ様でした。

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posted by 雪あらし。 at 20:20| Comment(4) | TrackBack(0) | グループホームって? | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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