2015年02月21日

死後の世界、あなたを迎えに来るのはだれ?

死んだらこうなるという本がある。どうなるのだろうと思って本屋で立ち読みをすることがある。誰でも死ぬ。死ぬときはおそらく一人だろうし、情報収集は今のうちにしておかなければならない。が、生きている人間の情報は胡散臭い。死んだ人間の情報は確実だが、決して手に入らない。したがって死の世界はいつもベールに包まれているのである。

最近、東京大学病院の救急センターの医師である矢作直樹氏の書いた本が売れているらしい。矢作医師は救急医療の現場で働いているから、人の死に数多く遭遇していて不思議な経験もあるという。本屋の店先でパラパラと立ち読みをしてみると興味深い文章を見つけた。死後の世界では、先に亡くなった親しい者が迎えにくるという。

「死んだら親しい人が迎えに来たり、可愛がっていたペットが迎えに来る場合もあるらしいよ。きっとロンが迎えに来るね」
と遊びに来た弟に言うと、
「ロンは迎えに来てくれないかも知れない」
と静かに答えた。

私が中学生、弟が小学生の時に我が家はパピーウォーカーになった。パピーウォーカーとは、盲導犬候補の仔犬を生後50日から約1年間、飼育する家族のことだ。資金難の盲導犬協会はボランティアで支えられている。幼犬の生育を一般家庭が行うのは金銭援助的な面と、愛情を持って育てられることで人間は信頼に足るものという心を幼犬に教えるためである。

学校から帰るとその男のコはいた。まだ幼いラブラドールレトリーバーのそのコは垂れた耳に大きな瞳で私たちをじっと見つめた。小学生の弟は飛びつくようにそのコを抱いた。そのコの尻尾はもう千切れんばかりにぐるぐると回っていたことを覚えている。

名前はパピーウォーカーがつけてもよいことになっていた。盲導犬になった時を考えて、呼びやすく、言いやすく、聞き取りやすい名前にした。きょうだいで考えた名前は「ロン」だった。

ロンはいつも元気で陽気で素直だった。ロンの母親は優秀な盲導犬だったが、父親は盲導犬試験に落ちていた。お父さんは逆さまつげで、盲導犬協会の人が言うには「ロンはお母さんに似たら優秀な盲導犬になるでしょう。逆さまつげじゃないから大丈夫と思います」ということだった。ロンのお兄さんは逆さまつげで父親似だと言う。逆さまつげが重要だということが、私たちにもわかったのである。私たちきょうだいは遺伝子を初めて知った。

弟とロンはいつも一緒だった。二人はきょうだいのようだった。近くの公立小学校に通う弟は、仲良し数名といつも一緒で、グループにはM君という知的障がいの男の子がいた。ロンも含めて彼らはいつも遊んでいた。

「ロンはボクよりもM君のことが好きで、いつも楽しそうにじゃれていた。小学生のボクはM君に嫉妬してロンに雪だまをぶつけながら怒った。Mと仲良くするなって。そうしたら、ロンは悲しそうなぶどうのような目をしてじっとボクを見ていた。ロンのことを考えると、あの時のことを思い出すんだ。ボクは100%の飼い主じゃなかったから」

1年後、約束の朝が来た。ロンは私たちが学校に行っている間に盲導犬協会に帰っていった。父親が私たちのショックを考えてそのようにしたのだ。そして、ロンが盲導犬になれなかった場合、家に戻してもらうようにお願いしてくれていた。私たち家族はそれを心から待っていた。盲導犬協会に戻ったロンは、同じ年頃のコたちといよいよ本格的に訓練の時間を過ごしていた。

ある時、父が、
「盲導犬協会に聞いたら、みんなが時計回りに走っているのに、ロンだけ逆周りで他の犬たちにぶつかっていくらしい。落ち着きがないようだし盲導犬には向いてないかもしれないな」
と嬉しそうな顔をして言った。

しかし、ロンは盲導犬になった。

盲導犬協会からは決してロンの近くにはいかないようにと言われていた。「犬は決してパピーウォーカーを忘れていないので、動揺させることになります」と言われて、私たちきょうだいは完全にロンを諦めた。私たちはロンの話をしなくなった。すれば悲しくなるばかりだった。ロンは「ロン号」というりっぱな名前になり遠い存在になった。

それから月日が経った。
毎年、お盆に家族は盲導犬協会の墓碑にお参りに行く。今、ロンはそこにいる。

M君は早くにご両親を亡くされたが、ご両親が残した土地は立地の良いところにあり月極め駐車場で生計を立てている。駐車場の周りには季節の花の鉢を置き、もうすっかり古くなった自宅周りにはつるバラを植えている。

弟は教員になり、毎年一度、学生を連れて盲導犬協会を見学している。


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posted by 雪あらし。 at 16:13| Comment(6) | TrackBack(0) | 日々の出来事。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
雪あらし。さん、こんばんは。
感想を書きたくなる内容満載の充実の前記事この記事・・・
でも、現在酔っ払いの私・・・(-_-;)

ロンくんは自分を通して学んでくれた弟さんを、
愛に溢れる大きな瞳で、
その時に、迎えに来てくれることでしょう。
知性と豊かな心を持つ弟さん・・・あぁ、雪あらし。さんの弟さんだなぁ・・・と納得です。

いつも素敵な記事をありがとうございます。


Posted by みやび at 2015年02月21日 19:40
雪あらしさん、
涙で涙で読めないです。
ロン君の気持ち、当時に弟さんの気持ち、家族の思い。
きっと、きっと、ロン君は天国で見守っていますよ。
もう、泣けます。
Posted by 円 at 2015年02月22日 00:58
★みやびさん、コメントありがとうございます♪

美味しいお酒でしたか?
良い土曜日の夜をお過ごしだったと思います。

みやびさんのおっしゃるとおりだったら嬉しいです。
動物たちを「可愛い」と保護することを考えますが、彼らは万事お見通しで逆にこちら側を大切に思ってくれたり気遣ってくれるようですね。
弟がぶどうのような目のロンにまた会えることを願っています。

情ない話ですが、ロンが盲導犬になった時、家族はがっかりしたものです。
新聞でハーネスをつけた「ロン号」の写真を見た時に嬉しいというよりも、辛さが先に立ちました。
盲導犬の寿命は短く、どれだけ神経を張り詰めて生きていったことかと思います。
しかし、彼を誇りに思わなければなりませんね。
ロンのことをいつかブログに載せたと思っていたので、読んでいただけて嬉しかったです。
ありがとうございました。
コメント感謝致します。
Posted by 雪あらし。 at 2015年02月22日 19:30
★円さん、こんばんは♪

コメントありがとうございます。
ロンは大きなことを成し遂げたので、もしかしたら私たちの方が足元にも及ばないかもしれません。
いたずらが好きでいつも朗らかな男子でした。
明るく懸命に職務を全うしたと思います。
ブログを読んでいただき感謝します。
Posted by 雪あらし。 at 2015年02月22日 19:34
雪あらしさん、こんにちは(*^_^*)
素敵な記事ですね。
ロンくんもきっと雪あらしさん達の愛を受けて立派な盲導犬になって
やるべき事を全うしたのだと思います。
きっとその時にはシッポをぐるぐる回しながら駆け寄って来てくれることでしょう(^O^)/
Posted by 赤鯉 at 2015年02月23日 13:49
★赤鯉さん、こんばんは♪

ロンはなかなかの器であったと思います。
レトリーバーは総じて温和で泥棒よけにならないそうです。
本当に懐かしい思い出になってしまいました。

ふと思ったのですが、死んでも誰も迎えに来てくれないということもあるでしょうね。
あと、恨みに思っている時は復讐にきたりとか。。。ちよいと怖いですね。
\(◎o◎)/!
Posted by 雪あらし。 at 2015年02月23日 23:14
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