2015年01月25日

人質事件について。

数日前のこと、「おはようございまぁす!」の後で、女性介護職員が大きな声で言い放った。「ねぇ、ねぇ、テレビ観た?」ハスキーな声だ。話は続く。

「好きで行ったんでしょ。何で助けないといけないわけ?自己責任っていうやつじゃん。死んでもいいじゃんそんなの」

「イスラム国」で人質にされた二人を指しているのだろう。昼休みにネットでニュースを見ると、案の定「自己責任論」が出ていた。彼女はスマホで目にした単語を、思慮するべきことなく、短絡的に反芻しただけなのだ。

後藤健二さんはジャーナリストである。彼らのような人がいなければ、私たちは現在の中東の情勢を知ることはできない。彼らが日々生命の危険を感じながら得る情報は、世界のもう一つのあり方だ。アメリカ経由の情報は、イスラムの世界を欧米の視点でしか示さない。紛争地域のピース(一片)を提示してくれるのは戦場報道人だけである。そのような後藤さんの「自己責任論」はどのようなロジックを持つのだろうか。

さて、湯川陽菜さんは後藤さんとは違うという人もいるが、彼の行いが「自己責任論」で断罪され、「死んでもしかたねぇよ」と言われてしかるべきものなのか。生きる行動の選択の一つが彼のビジネスであったら、それは彼の自己責任が問われものなのだろうか。自己責任とは、死を持って償うほどのことなのだろうか。

「自己決定」と「自己責任」は対をなし、現代日本人のほぼ全ての行動はこれは当てはまるだろう。例えば、あなたは酒に酔っているにも関わらず運転をする。それは自己決定であり自己責任が派生する。さて、コントロールを失ったあなたの車は電柱に激突してしまう。あなたは意識不明の重体となるが、あなたを「それはあなたの自己責任だから死んでもしかたがない。救急車は税金の無駄だから出さない」とは誰も言わない。命は貴い。速やかに救急車はあなたの元に到着し、医者はあなたを救うために最大限の努力をするはずだ。もし、ここで救急車が拒んだ場合は消防署は責任を問われ、医者が治療を怠った場合は病院が責任を問われる。この例を今回の場合にスライドするのは困難なことなのだろうか。人質の問題が生じた場合は、日本政府が個人を救うのは「国家的責任」ではないだろうか。

浅田彰はイラク日本人人質事件(2002年)に、「前近代のムラ社会」的意識と、人質本人や家族が「謝罪と感謝でひたすら頭を下げて回る」ことを強いる日本の精神風土を表現した。湯川さんの父親は混乱と悲しみの中で懸命に謝罪の弁を述べている。

人質にとられた人を「自業自得」というのではなく、今、イスラムの世界で何が起きているのか、9.11以降、何がここまで荒んだ中東にしていったのか、改めて私たちは考えなければならない。そして、後藤さんの命を救うためにも「自己責任」などという言葉を理解もせずに拡散してはいけない。

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posted by 雪あらし。 at 21:47| Comment(10) | TrackBack(0) | 日々の出来事。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりです雪あらしさん。
私も同感ですね。毎日帰宅してからテレビを観ますが、なんとか無事にと願っています。
ブッシュ政権下のイラク侵略で結局難民が残り悲惨な状況です。彼らを取材し、子供たちの教育に携わってきた後藤さんの命だけでもせめて助けてほしいものです。湯川さんは残念なことをしました。それにしても安部さんはやる気があるのだろうか。
Posted by 円 at 2015年01月27日 16:51
雪あらし。さん、こんにちは。

とてもまっとうでホッとする記事をありがとうございます。
自分の国や人間をおとしめるような、悲しくなる方向へ誘導しようとするような情報を、自分の頭と心でしっかり見極められるようでいなければなりませんね。
のほほんとして浅読みしかできない私などは特に。

できることは、ただ祈ることだけですが…自分の良心を辱めないためにも、祈っていようと思いました。

善い内容の記事を ありがとうございます…!


今日は道路が恐ろしい状態ですね〜。お仕事だったのでしょうか?明日朝も大変そうです。怪我などなさいませんように…!
Posted by みやび at 2015年01月27日 17:35
★円さん、こんばんは♪

お久しぶりです。
お元気ですか?(^_^)/
安倍首相の顔ですが、日を追う毎に、悲壮感が消えているように思えます。
ニュースではオバマ大統領が「人質との取引は認めない」と言ったなど聞くと、改めて日本のポジションを思い知らされます。
日本政府はアメリカの言う「テロには屈しない」(人質は見限ると同義)と国民の「命は助けてほしい」というダブルバインドで苦しんでいるのでしょうが、もう答えは出ているのでしょう、当然。
あとはヨルダンがナイトになってくれるのか。
それもヨルダンが傷つかずにです。

私も毎日ニュースを辛い思いで観ています。
なんとか助かってほしいです。
円さん、また、コメントお待ちしています。
Posted by 雪あらし。 at 2015年01月27日 22:22
★みやびさん、こんばんは♪


最近、ネトウヨと呼ばれる人たちの言葉が気になります。
正しい知識も思想もないのでしょうが。
スマホの普及とともに過激で前近代的な言葉があっという間に広がりますね。
後藤健二さんの母親が記者クラブで会見をした際に、自分の祖父が朝鮮の軍隊にいたというような話をしていましたが、ものの数時間で健二さんが「反日分子」となり、「在日は助ける必要なくね?」となります。
彼らの頭の簡単さ加減に呆れますが、件の介護ヘルパーは30代後半の子どももいる社会人です。
高齢者の前でこのような言葉をいう神経にも呆れました。

小泉政権下のイラク日本人人質事件で、自己責任論は大きな渦になって彼らと家族を巻き込んでいきました。しかし、パワエル氏は、彼らのボランティア行為を「日本人は誇りを持つべきだ」と言っています。

ネガティブな方向に持っていく情報を吟味する力を持たなければなりませんね。
私も祈ります。

みやびさん、コメントありがとうございます。
こういう政治的なことを書くべきではないと思っているのですが・・・・
つい書いてしまいました。
Posted by 雪あらし。 at 2015年01月27日 22:44
雪あらしさん、まずいことになってきました。深夜までニュースを観ていましたが、最初はパイロットと後藤さんの二人と女テロリストの交換で収まるかと思ったんですがね。いやいや大変にまずいです。
Posted by 円 at 2015年01月28日 10:32
★円さん、こんばんは♪

私も昨日は深夜までテレビを観ていました。
声明を聞くと、1対1と言っていますね。
「国の息子」とまで呼ばれているパイロットの解放がないと解釈され、暗澹として気持になっています。
そして、命の危険性もあります。
相手はならず者集団なので、この先もどのようなことが起きるかわからないですね。
なんとかパイロットと後藤さんの二人を助けてほしいです。
深夜がタイムリミットでしょうか。
Posted by 雪あらし。 at 2015年01月28日 20:42
そのとおりです。日本にはただの一度もイスラム過激派からのテロはありません。ことあるごとにアメリカから電話が来て指示される。アメリカの言いなりでなにもできない日本政府はそれなりのポーズをとっているだけです。
Posted by 通りすがりの者 at 2015年01月29日 11:54
★通りすがりの者さん、こんばんは♪

初めまして、雪あらしです。
コメントありがとうございます。
通りすがりの方とはいえ、嬉しいです。

イラク戦争でしょうね。
こじれにこじれました。
数十年経ったら、ある回答がでると思います・・・・
(ーー゛)
Posted by 雪あらし。 at 2015年01月29日 22:10
日本の政治にまで関わる問題、標的になり日本国内でもテロ行為が起こるかもしれない、犠牲者が増える事だけはなんとしても避けなければいけません。
Posted by いまひろ at 2015年01月30日 08:12
★いまひろさん、こんばんは。

日本国内でのテロ行為への危惧ですが、地理的にも、日本は極東の島国であり、ヨーロッパのように中東と地続きではありません。また、アメリカのような多民族国家でもありません。国内のテロ行為への過度な心配は、イスラム文化圏の人々への差別にも繋がりかねないので注意が必要です。

日本は軍事的攻撃をしないというスタンスです。そういう面からも、安倍首相の先の人道支援に対するスピーチは誤解を招くものであったと思います。彼はその時点で日本人二人が人質になっているのを知っていたのですから、違う表現をすべきでした。今後は日本の立ち位置を明確し、繊細な外交をすることが必要だと思います。これまでの歴史で数度にわたりトルコ国民を助け、ヨルダン王室の子弟が日本に留学したりと、親日家が多い中東の人々を大事にすることが大切です。

コメントをありがとうございました。
Posted by 雪あらし。 at 2015年02月01日 22:02
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